自然免疫系を賦活化する!
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自然免疫系を賦活化する!
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okazaki yoshihisaゲスト
Science Translational Medicine 14 Oct 2020
『Intratumoral nanoplexed poly I:C BO-112 in combination with systemic anti–PD-1 for patients with anti–PD-1–refractory tumors』
https://stm.sciencemag.org/content/12/565/eabb0391
(keyword)ナノ粒子、polyI:C、ICT抵抗性腫瘍、自然免疫、獲得免疫
(背景)
自然免疫系・獲得免疫系の双方を刺激できる“分子”は、原発巣・転移巣への治療効果を高めると考えられています。
こうした“分子”の、病変局所投与の治療効果増強作用は現在も研究中です。
このような“分子”として、
○サイトカイン
○腫瘍溶解ウイルス
○合成核酸
○デザイナー細菌
などが試されており、更に、免疫チェックポイント阻害薬:抗PD-1抗体と組み合わせることで、抗腫瘍効果の増強が可能ではないかと考えられています。
例えば、GM-CSF遺伝子を組み込んだ腫瘍溶解単純ヘルペスウイルス製剤(T-VEC)は、メラノーマ患者さんで、ペンブロリズマブと組み合わせて使用されています。
今回、このグループは、
BO-112:
陽イオン担体ポリエチレンイミン(PEI)(注2)でナノ粒子状に梱包されたポリイノシン・ポリシチジン酸(polyI:C)(注1)を作製しました(polyI:C-PEI)。
polyI:Cは、二重鎖RNA(dsRNA)の類似物として機能します。
つまり、生体内でウイルスRNA類似物として働き、エンドソームでToll-like受容体3(TLR3)に、
細胞質基質でMDA5蛋白質に結合し、typeⅠ-IFNを誘導します。
polyI:Cに関連した化合物の開発は、1985年頃から試みられてきましたが、抗腫瘍効果はいまひとつで、慢性ウイルス感染症、慢性疲労症候群などへの展開が試みられてきたようです。
●polyI:Cは、皮内投与の安全性が確認されています。
●初期型polyI:C-PEIは、メラノーマモデル血管内投与で、オートファジー,MDA5,NOXAを活性化し腫瘍細胞死を誘導することが確認されています。
●マウス前臨床試験で、BO-112(polyI:C-PEI)の腫瘍内直接投与は、腫瘍浸潤性CD8⁺T細胞や細胞障害性T細胞を増加させます。
●こうした効果は、IFNγ、IFNα/β依存的に起こり、注射された腫瘍だけでなく遠隔転移病巣でも確認できました。
●更に、こうした効果は、抗PD-L1抗体の併用で増強されました。
●腫瘍内BO-112は、MHC-Ⅰ分子の発現により、Jak-1欠損マウス腫瘍細胞の養子T細胞療法への感受性を回復させることも明らかになっています。
こうした情報を基に、BO-112の腫瘍内投与、二ボルバムやペンブロジズマブとの併用効果などを検討するヒト臨床治験(NCT02828098)を計画したそうです。
(内容)
Fig.1のように、Cohort1,2,3,4の4群にわけ、図示されたプロトコールに従って治験を実施しました。
赤矢印:BO-112の投与時期で、D1=Day1目、W1=一週目などを現します。
Fig.1↓
Cohort1,2,3,4の患者背景は、Tabel.1、Tabel.2のとうりです。
Tabel.1、Tabel.2↓
観察された副作用は、Tabel.3に示されています(今回は省略しました)。
全般的に、予想外のコントロールできない命に関わる副作用は観察されなかったようです。安全性は許容範囲内でした。
以下では、特にCohort4群の患者28人の詳細解析に注目します。
Fig2.a:
腫瘍縮小効果を示す、Waterfallプロット解析の結果です。
Fig2.b:
swimmer plot解析です。(患者ごとの、治療履歴、イベント発生履歴を図示したもので、縦軸は各々の患者、横軸は治療開始からの経過時間を示します)
2人/28人が、治療に反応し続けているようです。
Fig2.c:治療に反応した2人のCT画像です。
左:治療開始前
右:治療開始後9or10週後の画像です。
上:ニボルマブに耐性のBRAF野生型メラノーマの女性患者です。
下:スニチニブ、カボザンチニブ、エベロリムス、ニボルマブに耐性腎細胞患者の男性患者さんです。
黄色矢印:BO-112投与部位を示します。
赤色矢印:非投与部位を示します。
両者ともに腫瘍の縮小が認められます。
注射部位と離れた腫瘍部も縮小しています。
Fig2.a,b,c↓
Fig.3A、3B:
Cohort 4群のBO-112治療前後での腫瘍生検組織中免疫細胞密度解析です。
特に、3人(2人はPRを達成したメラノーマ患者さん、1人はBRAF変異を持ったメラノーマ患者さん)に注目すると、CD8+ T 細胞密度は有意に増加しています(P = 0.0078)。
治療前後でのCD4⁺細胞の腫瘍内浸潤に有意い差は見られませんでした。
Fig.3A、3B↓
Fig4.a:
N=17人の治療後の10コの遺伝子の発現解析です。
治療反応群(PR+SD)と治療無反応群で明らかな発現パターンの違いがありそうです(左下、右上に注目)。
●GZMB , KLRK1のような、T細胞の細胞障害性に関与する遺伝子発現は、治療反応群で上昇しています。
●IL13RA2, MAGEeC2, CTCFL,SERPINB2のような遺伝子発現は、治療反応群で低下しています。
Fig4.b:治療反応群(PR+SD)で、特に発現が増加or低下した遺伝子を赤字でプロットしました(P cutoff = 0.01)。
Fig4.c:エンリッチメント解析を行いました(発現変動遺伝子 の機能に、何が多いのか(転写因子が多いのか、細胞周期が多いのか?Wntパスウェイが多いのか?, etc)を解析する方法)。
予想どおり、T細胞の細胞障害能やBO-112関連遺伝子と考えられている遺伝子群が上位にランキングされました。
Fig4.a,b,c↓
(結論)
BO-112とニボルマブorペンブロジズマブとの組み合わせは、
●安全性は許容範囲である
●3人(2人はメラノーマ、1人は腎細胞ガン)では、PRを達成し、10以上の患者では、8週後、12週後でもSDを達成した。
こうしたデーターから、
BO-112+ニボルマブorペンブロジズマブ
療法は、免疫チェックポイント阻害薬抵抗性固形腫瘍の新しい治療法になる可能性が示唆されていると結論しています。
(感想)
BO-112という、自然免疫系を刺激する薬剤を腫瘍局所に注射することで、免疫腫瘍微小環境が抗腫瘍の方向に修飾され、そこでICTを行うと効果が増すようです。
自然免疫⇔獲得免疫⇔腫瘍の“連関の環”を構築する重要性を示唆しているように感じました。
(注1)
polyinosinic:polycytidylic acid(polyI:C)
https://en.wikipedia.org/wiki/Polyinosinic:polycytidylic_acid
(注2)
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@kensho_2021phamゲスト
自然免疫トレーニングは、ホットな領域なのですね。最近私も二報ほど紹介したばかりです。
実際にこういう手法が臨床で取り組まれていることを実感致しました。ご紹介有難うございます。
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