5つの異なる腫瘍抗原を標的にしたT細胞療法!?
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5つの異なる腫瘍抗原を標的にしたT細胞療法!?
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okazaki yoshihisaゲスト
SCIENCE TRANSLATIONAL MEDICINE 29 July 2020
『The safety and clinical effects of administering a multiantigen-targeted T cell therapy to patients with multiple myeloma』
(key-word)多発性骨髄腫、複数(5種類)腫瘍抗原標的T細療法、非エンジニアリング細胞療法
(背景)
多発性骨髄腫(MM)に対する治療薬は、近年様々な薬が開発されていますが、多くの患者で、最終的に再発・治療抵抗性となるため、新たな治療法開発が求められています。
B細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T療法がありますが、初回患者で80%以上の治療反応性を示すものの、CAR-T療法後、平均12か月頃に発生する“再発”が大きな問題となっています。
そこで、彼らは、デザイナーT細胞によるアプローチとは異なる方法の開発を目指してたようです。
(方法)
論文:『Cytotoxic T Lymphocytes Simultaneously Targeting Multiple Tumor-associated Antigens to Treat EBV Negative Lymphoma』で報告した方法を応用し、複数(5種類)の腫瘍抗原標的T細胞をMMの患者末梢血から作製します。
⇒PRAME,SSX2,MAGEA4,NY-ESO-1、 Survivin5種類のアミノ酸配列をカバーした、“ペプチドライブラリー”を作製し、Th1分化誘導性、生存延長性、増殖促進性サイトカイン、樹状細胞を加えた培地を作製します。この培地に担癌患者から採取した末梢血単核球細胞(PBMCs)を加え共培養し、multitumor-associated antigen (mTAA) T cells=mTAA-T細胞=多腫瘍抗原標的T細胞を作製します。
凍結保存時には、患者の殆どのT細胞はCD3+細胞です(平均98.5%; range, 65.3 to 99.7%)。
そのうち、
CD4⁺T細胞=平均 26.91%, 2.4 to 93.4%
CD8⁺T細胞=平均56.8%, 3.1 to 94.7%
を占めていました。
CD4⁺T細胞かつCD8⁺T細胞集団を解析すると、
セントラルメモリーT細胞(CD45RO+/62L+/CCR7+)は、0.19%; 0 ~1.4%存在し、
エフェクターメモリーT細胞(CD45RO+/62L−/CCR7−)は、59%; 4.2 ~88.6%存在していました。
(Fig.1Aに詳細あり)
CDR3-TCRのディープシークエンスをmTAA-T細胞のT細胞受容体多様性を評価するのに用いました。
結果、Fig.1Bに示されているように、mTAA-T細胞系列は、平均4597種類のポリクローナル細胞系列(890~13995)であり、その内の79.5%は試験管内で増殖させた細胞中に存在し、患者末梢血液サンプル中には存在していないようです。この性質のため、患者に投与後、患者生体内での動態を追跡可能なようです。
作製したmTAA-T細胞系列の“off-tumor”効果を、患者由来PHA(注1)刺激芽球に対する細胞障害性によって評価したところ、Fig.1cに示されているように悪性細胞以外に対する自己反応性は観察されず、安全性は確認できたそうです。
次に、mTAA-T細胞系列を
PRAME,SSX2,MAGEA4,NY-ESO-1,Survivinのアミノ酸配列をカバーしたペプチドライブラリーで刺激した後、ELIspot法にて機能性を評価しました。
患者23人から作製した、23系列のmTAA T細胞系列:
●7系列は、5種類全ての抗原に反応しました。
●3系列は、4種類の抗原に反応しました。
●2系列は、3種類の抗原に反応しました。
●1系列は、2種類の抗原に反応しました。
●4系列は、1種類の抗原に反応しました。
●6系列は、1~3種類の抗原に反応閾値を下回る感度で反応しました。
こうしたT細胞には、ペプチドライブラリーで刺激した時、IFN-γ、クランザイムB、パーホリン、TNF-αといった、抗腫瘍性遺伝子の発現が観察され、ICS法によりタンパク質レベルでも発現が確認されました。
Fig.1Iに示されているように、こうして作製された、mTAA-T細胞系列は、選択的に5種類の標的を様々な頻度で発現した腫瘍細胞を殺傷できることが確認できました。(平均38±8.9%の特異的殺傷能、E:T比=40:1)
こうして作製・評価したmTAA-T細胞を使用して、21人のMM患者に“多抗原標的T細胞療法=mTAA-T細胞投与療法(0.5 × 107 ~2 × 107 cells/m2を投与します)”を試みました。
(安全性)
原論文では、mTAA-T細胞の投与時に、(Table3)に示されているように、深刻な副作用は認められなかったそうです。
(治療反応性)
グループA:細胞投与時に寛解であった9人の患者から成る群。
細胞投与後、8週間後時点の病勢評価。
●mTAA-T細胞投与開始時点で完全寛解状態であった患者9人は、全員完全寛解状態を維持できました。
●9人中2人だけが、投与後7月後、13月後の時点で再発しました。
●残り7人は、平均27.5か月後の時点でも完全寛解を維持していました。
●9人中5人は、レナリドミド(≦10mg/日)維持療法を経過中に追加されました。
グループB: 細胞投与時に再発・活動期にあった12人の患者から成る群。
細胞投与後、8週間後の時点の病勢評価。
●9人は不変であり、1人は追加治療なしで完全寛解でした。
●2人は、投与後早期(<8週)に次の治療が必要になり経過観察対象からはずれました。
●長期経過観察できた10人中、
A:1人は12か月後の時点で不変でしたが、その後の経過はフォローできていない症例です。
B:7人は、3~31月後に病勢進行を認めました。
C:2人は、長期(19~46ケ月)に渡って治療に対する反応性を示しています。
●8週後の評価に至った患者のPFS平均期間は22か月でした。
●10人中3人は、レナリドミド(≦10mg/日)単剤、1人は、レナリドミド(≦10mg/日)+ポマリドミド(≦3mg)をデキサメサゾンなしで追加投与されています。
●投与後12か月以内で、追加治療を開始するまで、良好な治療反応を示した10人の患者で血中M蛋白質濃度変化を調べると、9人で不変~減少(-80%~-11%)傾向でした。
●21人中9人(進行:7人/グループB中;再発:2人/グループA中)は、mTAA-T細胞療法に続く治療に反応せず、多くは病状悪化にて死亡したそうです。
(総括)
●投与細胞量と治療効果間には相関は認められないようです。
●投与T細胞間に増殖能・生存能の違いは認めませんでした。
●グループAとグループB間で、生体内T細胞の振る舞いに違いが見られました。
1:グループA(アジュバント治療としてのmTAA-T細胞療法を受けた群)は、投与T細胞が、寛解期のため腫瘍抗原による刺激を受けにくく、末梢血中で5つ全ての標的抗原に対するT細胞増殖が緩やかですが、グループB(投与時、病勢が活動期にある群)では、標的抗原に対するT細胞増殖が著明に認められました。
末梢血中・骨髄中で同じ傾向でした。
(更に詳細な解析)
グループB群の#4患者の解析例:
投与前は活動期で、mTAA-T細胞治療でCRを達成し、2年後に再発した患者です。
治療前⇒初回寛解時⇒2年後再発時の経過
再発時に腫瘍細胞が標的MAGEを欠損したのは、投与T細胞によって誘導された“治療選択圧”の一例と考えられます。
グループB群の#3患者の解析例:
末梢血液中のT細胞のクローン多様性は、4週間後~6か月後まで保たれ、標的抗原TAAsの継続した発現は、生体内T細胞を刺激し続けていたと推察されます。
⇒しかし、この患者では、投与後6か月目に病勢が進行しました。
原因を探るため、末梢血のmRNAシークエンスを行いました。
投与前、6週後、3ケ月後、6ケ月後で比較すると、
●腫瘍免疫抑制分子:CTLA4,LAG3の発現が著明に上昇していました。
●T細胞刺激/活性化分子:MS4A1,IL1B,CD86の発現は著明に減少していました。
●P53シグナル伝達系、c-myc、mir-23b,染色体6p22にクラスター化した遺伝子群なども測定前後で著明に変化していました。
つまり、T細胞受容体の多様性は維持されていますが、腫瘍免疫に関係する分子の発現パターンが、腫瘍発育に有利な方向に流れ、治療成績が芳しくなかった症例のようです。
実際、この患者は全ての治療に抵抗性となり、投与後12か月目に病勢は進行したようです。
(感想)
21人のMM患者に“多抗原特異的T細胞療法”を試みた研究です。
対象患者数が少ないところは、今後の検討が必要だと思われますが、遺伝子編集によるCAR-T細胞が、単一or2種類の抗原しか標的にできないのに対して、ペプチドライブラリーと自家T細胞から、5種類の異なる腫瘍抗原を標的にできる、殺腫瘍性T細胞を作製し、症例数は少ないながら、長期に渡るCR,SD,PRを達成できることを示した点は興味深いと思います。
また、個々の症例を丹念に解析すると、同じ治療法に対する反応の背景にある機構も個々で違っており、“プレシジョンメディスン”的思考法を取り入れる必要性を実感しました。
CAR-T療法を考慮するときにも、標的抗原を中心にした“殺腫瘍効果”だけに注目するのでなく、患者体内にもともと備わっている“免疫系全体”の変動にまで考慮する必要があるのかもしれません。
そう考えると、腫瘍免疫を予測・制御することが、どれだけ難しいことなのか?
実感できます。
追伸:今回も文章だけの投稿となりました。引き続き、よろしくお願いいたします。
(注1)phytohemagglutinin
ヒトのリンパ球にphytohemagglutinin (PHA) に代表される各種のmitogenを加えて培養するとリンパ球はいわゆる芽球様化現象を起こす。この現象は広く血液学あるいは免疫学の分野に導入されるようになった.
(注2)ET比
Effector細胞とTarget細胞を混合培養する際の比率である。
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okazaki yoshihisaゲスト
(追記)
多発性骨髄腫に対して、5つの異なる腫瘍抗原
PRAME,
SSX2,
MAGEA4,
NY-ESO-1,
Survivin
を同時に標的にするT細胞治療の試みです。
mTAA-T細胞療法と名付けています。
●細胞投与前に寛解期にありアジュバント治療として行ったA群:
もともと寛解期のため、押しなべて治療効果は良好です。
しかし、腫瘍抗原による生体内刺激が弱いためか、T細胞レパトアのexpansionは弱い傾向にあります。
●細胞投与前に病勢が活動期にあり、主治療の一貫としてmTAA-T細胞療法を行ったB群:
もともと活動期のため、A群程、治療効果は良好ではないですが、SD,PRに至った症例も存在します。
また、患者#4,#3を詳細解析を比較すると、
○投与前腫瘍の5つの腫瘍特異抗原発現パターンは違っている可能性がある。
○それに合わせて、生体内でTCRレパトアパターンも、2人間、時系列で違っているようだ。
○#4患者では、“治療選択圧による腫瘍細胞の進化”を思わせる、腫瘍抗原消失減少も確認された。
○#3患者では、生体内のTCRレパトアexpansionは保持されているが、抗腫瘍免疫分子、T細胞増殖・活性化分子の
発現パターンの変動により、mTAA-T細胞の“殺腫瘍効果”が減弱した可能がある。
つまり、悪性疾患の免疫細胞療法は、
1:単一or2つ程度の“分子標的”的治療だけではうまくいかない可能性
2:治療効果を決めるパラメーターは、患者腫瘍、患者免疫系、mTAA-T細胞の3つに絞って
みたときも、極めて多数(腫瘍特異抗原の有無、mTAA-T細胞の状態決定分子、初期の患者病勢etc)ありそうだ。
3:時空間内で時々刻々変化する“極めて多数のパラメーター”を最適値に制御する技術が必要だが、
そのような技術をヒトは発明できるのか???
といった疑問とも向き合う必要があるのかもしれないと最近痛感しています。?
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