細菌コンピューターで治療する!?
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細菌コンピューターで治療する!?
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2020-10-04 12:29 #226okazaki yoshihisaゲスト
2019年の論文で、“最新”という条件には合致しないかもしれませんが、個人的に興味を惹かれたので、自分自身の勉強を兼ねてupさせて頂きました。
ご容赦ください。
Nature medicine
『Programmable bacteria induce durable tumor regression and systemic antitumor immunity』
https://www.nature.com/articles/s41591-019-0498-z
Key word:合成生物学、細菌コンピューター、ラマ抗体、がん免疫療法
(背景)
細菌感染症とガンとの関連は、William Coley先生の研究にまで遡ります。Coley先生の報告は、肉腫と化膿レンサ球菌でしたが、今回の論文は、細菌コンピューター=大腸菌とガンで検討しています。
(内容)
まず、keyになる分子の紹介です。
CD47分子:血球細胞がマクロファージ、樹状細胞などの貪食細胞からの攻撃を守るたんぱく質として知られています。 CD47はヒトの赤血球、血小板、リンパ球などの血球系細胞表面に存在しますが、AML(急性骨髄性白血病)、NHL(非ホジキンリンパ腫)、乳がんなどの固形がんのがん細胞などにも過剰に発現していることが知られています。CD47分子を発現している悪性腫瘍は免疫細胞による攻撃を回避しやすくなると考えられます。
そこで、CD47分子の阻害によって悪性腫瘍を治療しようという発想が生まれたわけです。ただ、CD47阻害剤を直接全身投与すると、ヒトではCD47分子が赤血球や血小板表面にも発現されているために、貧血・血小板減少症等の副作用が認められます。
そこで、腫瘍局所選択的にCD47分子をデリバリーできないかと発想し、細菌コンピューター=大腸菌を利用することを着想したようです。
(方法・実験)
マウス抗CD47抗体に比し約200倍の結合能を有する“ラマ(注1)”単鎖抗体=nanobodyが開発されています。このnanobody、Fc調節効果が欠如しているために効果発現がmaildですが、腫瘍特異的抗体や免疫チェックポイント阻害薬と同時に使うと著名な抗腫瘍効果を発揮するとのことです。
このCD47nanobody遺伝子を組み込み安定して生産できるプラスミド(Fig5のb)を作製します。
病巣局所で細菌密度が高まると自己溶解するようプログラムするためのプラスミド(Fig5のa)を作製します。
大腸菌にはquorum sensing機構(注2)という不思議な機構があるそうで、この機構とプラスミド(Fig5のa)を組み合わせて病変局所で細菌密度が一定値に達すると自己溶解するよう大腸菌をプログラミングします(細菌コンピューターですね)。
コントロールプラスミド(Fig5のc)を作製します。
これら3種類の人工遺伝子回路を組み合わせて、以下の3種類の細菌コンピューター=大腸菌を作製します。
PBS:Fig5のcプラスミド組み込み大腸菌
eSLC:Fig5のaプラスミド組み込み大腸菌
eSLC–CD47nb:Fig5のa+ Fig5のbプラスミド組み込み大腸菌(腫瘍局所で条件が整えば自己溶解しCD47nbを放出します)
モデルネズミBALB/c miceの背中に、
●A20Bcell lymphpma cell、
●4T1-Luciferase mammary carcinoma cells、
●B16-F10 melanoma cells
をそれぞれ皮下移植した実験系をつくり、3種類の細菌コンピューター=大腸菌を腫瘍局所に注射投与し解析しました。
(結果)
Fig1⇒
細菌コンピューター=大腸菌は予想どおりの挙動をしめしていました。
Fig2⇒
A20Bcell lymphpma cell移植モデルでは、各種の抗腫瘍免疫が誘導されることが確認できました。
Fig3⇒
eSLC–CD47nb型大腸菌を局所注射したとき、全ての腫瘍型で腫瘍体積増大は抑制され、A20Bcell lymphpma cell移植モデルでは転移が抑制され、生存率も明らかに上昇しました。
Fig4⇒
さらに、A20Bcell lymphpma cellを異なる2か所に移植したモデルで、一方の腫瘍だけにeSLC–CD47nb型大腸菌を局所注射すると未治療の腫瘍体積の減少と抗腫瘍免疫の増強が確認されました。
いわゆる、“アブスコパル効果(注3)”に酷似した現象を観察できたと思われます。
(感想)
ヒト細胞だけでなく大腸菌も合成生物学では“加工”の対象になり、細菌コンピュータへと改造できるようです。
私も、西川伸一先生主催 aasjの論文ワッチで世界の情勢を知った次第です。
今回の論文は、アメリカのコロンビア大学からの報告でした。
アメリカは国策として医療産業の振興に取り組んでいるようでチャレンジングな研究が多いですね。
最後に下記の本も思い出しました。
『ウェットウェア : 単細胞は生きたコンピューターである』
https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784152092335
今回の実験は、まだ概念実証の段階だと思いますが、大腸菌さえ”薬”へと改造可能な時代が到来しているようです。
注1:ラマ:
このラマの抗体を薬などに利用しようとした試み、盛んにおこなわれているようです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%A3%E3%83%9E
注2:quorum sensing機構:
一部の真正細菌に見られる、自分と同種の菌の生息密度を感知して、それに応じて物質の産生をコントロールする機構
注3:アブスコパル効果:
放射線をがん組織に照射して治療を行うと、不思議なことに、放射線が当たっていない遠方にあるがんも縮小する、という効果をいいます。
Fig1↓
Fig2↓
Fig3↓
Fig4↓
Fig5↓
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