iPS細胞の臨床への展開、CAR-T療法解禁、遺伝子治療の臨床への展開etcと新テクノロジーの医療への展開が始まったようです。そんな時勢を反映するような論文をレポしてみました。
(論文)
N Engl J Med . 2020 Feb 6;382(6):545-553. doi: 10.1056/NEJMoa1910607.
『Use of CAR-Transduced Natural Killer Cells in CD19-Positive Lymphoid Tumors』
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32023374/
key word:NK細胞、CAR-NK細胞、Lymphoid Tumors、合成免疫学
(背景)
抗CD19CAR-T療法はB細胞系悪性腫瘍に効果を示しますが、重篤な副作用も引き起こしますし、遺伝子改変等の細胞加工工程も煩雑とのこと。そこで、抗CD19 CAR受容体を発現するよう改変された、Natural killer (NK) cells(NK細胞)に注目してみました。
(方法)
臍帯血由来NK細胞を採取します。これににレトロウイルスベクターを使って、 anti-CD19 CAR遺伝子, interleukin-15遺伝子, 安全装置として inducible caspase 9遺伝子を導入し増殖させて、HLA-不一致型 抗CD19 CAR-NK細胞(CAR-NK細胞)を作製します。これを、再発・治療抵抗性のnon-Hodgkin’s リンパ腫又は慢性リンパ性白血病[CLL]の患者11人に投与するphase 1 and 2 の試験を行いました(Fig1)。
最初にリンパ除去化学療法を施します。その後、
1回だけ1×10^5個, 1×10^6個, 1×10^7 個(CAR-NK cell細胞/ kg body weight)の3通りの量を点滴投与します。
(結果)
CAR-NK細胞の投与による、サイトカイン放出症候群、神経毒性、GVHD等は認められず、IL-6の上昇も認められませんでした(Fig2)。
CAR-NK細胞治療を受けた11人の患者のうち、8人(73%)が治療に反応し、このうち7人(リンパ腫:4人、CLL:3人)が完全寛解に至りました。残り1人では、リヒター症候群[注1]は寛解しましたが、CLLは寛解に至りませんでした(Fig3)。
3種類全てのレジメンで、治療に対する反応は30日以内の早期に認められ、投与したCAR-NK細胞は、低いレベルですが、少なくとも12か月間は患者体内で増殖し続けていたようです(Fig4)。
(感想)
iPS細胞、CAR-T細胞が臨床展開可能な時代になりました。CRISPR-Cas等の洗練された遺伝子編集技術も出現し、“改造細胞”が“薬”になとは驚きです。
T細胞だけでなく、NK細胞も加工の対象になるんですね。。。。
免疫系をヒトの意図に基づき設計する=合成免疫学の時代が到来したように感じます。
さらに、投与された細胞コンピューターは生体内で生存し続けることが可能なようです。。
John von Neumann著『自己増殖オートマトンの理論』のことも連想しました。
https://www.iwanami.co.jp/book/b265403.html
ネットで見ると大須賀先生が留学されておられるアメリカでは、こうした合成生物学的研究も盛んなようで実際の現状など大変興味を持っております。
*注1*
リヒター症候群:CLLの約10%に経過の早いリンパ腫へと変化するものがあり,報告者の名前にちなんでリヒター症候群(Richter’s syndrome,RS)と呼ばれる.一般に,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫へと変化することが多いが,ホジキンリンパ腫(Hodgkin’s lymphoma,HL)へと変化するものもある.
Fig1↓
Fig2↓
Fig3↓
Fif4↓