3次リンパ組織と腫瘍免疫

3次リンパ組織と腫瘍免疫

  • このトピックは空です。
0件の返信スレッドを表示中
  • 投稿者
    投稿
    • #327 返信
      okazaki yoshihisa
      ゲスト

      Nature

      Published: 15 January 2020
      『B cells and tertiary lymphoid structures promote immunotherapy response』

      https://www.nature.com/articles/s41586-019-1922-8

      key word;3次リンパ組織、B細胞、がん免疫微小環境

      前回と前々回と、ヒト生体内にCAR-T細胞を投与した時の反応をレポした論文を見てきました。今までの“物質”である薬とは異なる“ナマノモ”独特の面がありそうです。抗腫瘍効果の面でも“エピトープスプレティング”などレシピエント免疫系の不思議な変化も重要そうな印象を持ちました。

      腫瘍浸潤リンパ球、CAR-T細胞が存在していても、

      ●がん組織へのホーミングが十分でない

      ●がん組織内でのT細胞活性化が十分でない。

      ●腫瘍障害性T細胞が、体内で長期にわたって維持される場が十分でない。

      などの問題が指摘されています。

      そのため、抗原性を次々と変化させて増殖するがん組織に臨機応変に対応して強力な抗腫瘍免疫機能を発揮する場としての3次リンパ組織にも注目が集まっています。

      今回は、担癌ヒト生体内での免疫機構、特に“3次リンパ組織”に焦点をあてた論文を読んでみました。

      ガン免疫療法では、T細胞に注目が集まりがちですが、腫瘍微小環境にはB細胞の浸潤も観察されています。しかし、その役割はあまり明らかにされていません。

      過去の論文を見ると、腫瘍浸潤B細胞は、ガンの悪性化に寄与しているとする報告もあれば、組織化された3次リンパ組織(注1)に存在するB細胞は、抗腫瘍的に働くとする報告もあるようです。

      3次リンパ組織(TLS)は、ヒト悪性腫瘍のあらゆるstage、原発巣・転移巣に認められると同時に、その存在には患者間・腫瘍の種類間によって大きなバラツキがあるようです。

      今回、治験(NCT02519322)のPhase2・免疫チェックポイント阻害薬(ICB)による術前ネオアジュバント治療にエントリーした、clinical-stageⅢ+少数転移を伴うstageⅣ、切除可能なメラノーマ患者さん、その他、治験(NCT02210117)にエントリーした腎細胞ガン(RCC)の患者さんの組織を解析した結果を報告しています。

      ICB治療としては、

      二ボルバム単剤群=Nivo、

      二ボルバム+イピリムマブ群=Ipi+nivo,

      二ボルバム+ベブシズマブ群=Nivo+bev

      の3群です。

      治療反応群:=RECISTによってCRまたはPRと判断された群。

      治療無反応群:=RECISTによってPR未満

      と判断された群。と定義されています。

       

      患者組織バルクにRNA-seqを行いました。

      ICB治療(ニボルマブ単剤群)に反応群では、MZB1、JCHAIN、IGLL5など、B細胞に関連した遺伝子の発現が認められています。B細胞の機能変化に関与している、FCRL5、IDO1、IFNG、BTLAなどの遺伝子も、治療反応群の患者で著名に上昇しています(Fig1.a、Fig1.b右側上に注目)。

      RNA-seqのデーターを基に、MCP-計測方法で腫瘍免疫微小環境の評価を行いました。

      治療反応群(右側)で、T細胞、CD8⁺T細胞、細胞障害性リンパ球、NK細胞、B細胞、単核球系列などのスコア(割合)が有意に高くなっています(右端のp値に着目)(Fig1.c)。

      、。治験NCT02210117、腎細胞ガン患者の結果です(Fig1.d)。

      メラノーマの場合と同様に、T細胞、CD8⁺T細胞、細胞障害性リンパ球、NK細胞、B細胞、単核球系列などのスコア(割合)が有意に高くなっています(右端のp値着目)。

      病変の存在部位(リンパ節orその他)には影響されてなさそうです。。

      (Fig1.c)、(Fig1.d)から、治療反応群vs治療無反応群で、B細胞系列のMCP計測スコアーに有意差がありそうです。

      Fig1.a↓

      Fig1.b,c,d↓

      次に腫瘍サンプルの組織学的解析を行っています。

      B細胞の分布密度、TLSとの位置関係などを解析しています。

      CD20⁺B細胞密度(Fig2.a)、TLSの密度(Fig2.b)、腫瘍に対するTLSが占める割合(Fig2.c)は、治療反応群(特に治療早期の検体)で有意に高かったようです。

      また、今回は図示していませんが、治療反応群では、B細胞関連の末梢血中エクソソームも有意に高かったそうです。

      CD20⁺B細胞は、治療反応群患者の腫瘍内TLSに主に存在しています(Fig2.d,e,f)。

      CD4⁺T細胞、CD8⁺T細胞、FOXP3⁺T細胞と共存在しています(Fig2.d,e,f)。

      ここでは図示されていませんが、CD21⁺濾胞樹状細胞、MECA79⁺高内皮細静脈とも共存在しています。

      Fig2↓

      今回観察されたTLSの多くには、CD23⁺胚中心B細胞、CD21⁺濾胞樹状細胞が存在しており、成熟2次濾胞様TLSと考えられます。(2次濾胞:=B細胞の芽球化の場としての胚中心を伴うリンパ濾胞のこと。)

       

      B細胞受容体に対するRNA-seqデータを解析しました。

      治療反応群で、

      免疫グロブリンH鎖(IgH)

      免疫グロブリンL鎖(IgL)

      のクローン性の増加を認め、

      B細胞受容体の多様性は増加しています。(Fig3.a)。

      これは、抗腫瘍免疫におけるB細胞の積極的な関与を示唆するデータです。

      さらに、治療反応群vs治療無反応群の腫瘍検体内の各種細胞の存在割合をRNA-seqデータを基に割り出しました。

      B細胞の割合は、治療反応群で有意に増加していました(p値0.004)。

      骨髄系細胞は治療無反応群で有意に増加していました(p値0.002)(Fig3.b)

      治療反応群で上昇していたパスウエイ:

      CXCR4シグナル、サイトカイン受容体相互作用シグナル、ケモカインシグナルが確認されています。

      次に、メラノーマ患者(治療反応群、治療無反応群混在)の腫瘍内B細胞と末梢血B細胞を解析しました。

      CD45+CD19+ B 細胞群は、下記の5群のクラスターに分類できました(Fig3.d)。

      ●naive (CD19+, CD27−, IgD+)

      ●transitional (CD19+, CD24++, CD38++, CD10+, CD27−, IgD+),

      ●unswitched and switched memory (CD19+, CD27+, IgD+/−),

      ●double-negative (CD19+,CD27−, IgD−),

      ● plasma (-like) cell (CD19+, CD20−, CD22−, CD38++,CD27++)

      腫瘍内では、naïve、memory、plasma群が多いようです。

      腫瘍内B細胞はCD21,CD23,CD79b and CXCR5といった分子の発現が減少していました。

      次に、治療反応群と治療無反応群で比較しました(Fig3.d)。

      治療反応群では、memory B 細胞群が有意に増加し、治療無反応群では、naive B 細胞が有意に増加していまし(Fig3.e,f)。

      その他、治療反応群で

      ●plasma 細胞群の増加(P = 0.3)

      ●CXCR3+ switched memory B細胞群の増加(P = 0.0083)

      ●CD86+ B 細胞群の増加 (P = 0.017)

      ●germinal-centre-like(CD19+, CD20++, CD38+, CD27−, IgD−, CD86+, CD95+) B 細胞群の増加 (P = 0.24)

      などが観察されています。

      Fig3a.b.c↓

      Fig3.d.e.f↓

      B細胞増殖は、TILでの胚中心形成などを反映していると思われます。

      今回観察された、B細胞増殖は、TIL内における他の免疫細胞との相互作用を通じて、T細胞活性、T細胞機能に影響を与えている可能性を示唆しています。

      (感想)

      TILは、悪性腫瘍だけでなく、自己免疫性疾患(リュウマチ)等でも病態に関与していることが指摘されています。TILを生検組織に認めるリュウマチ患者さんでは、治療反応性が低いなど。

      今回、TIL内の細胞動態を詳しく解析しましたが、ICBに対する反応性は、TIL内B細胞受容体の多様性と関係しているようです。前回までのCAR-T療法でもそうでしたが、標的分子の有無、チェックポイント分子の有無だけでなく、レシピエント側の免疫系の腫瘍進化に合わせた“進化”が、治療反応性にはより重要なのかもしれません。

      腫瘍生物学は“奥が深い”

      今回は、下記論説を思いだしました。

      実験医学増刊号 『線維化』

      局所免疫の要としての三次リンパ組織

      https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/book/9784758103886/index.html

       

      (注1)3次リンパ組織:

      リンパ組織はそこに含まれるリンパ球の発達・成熟段階によって一次、二次、三次と分けられる。胸腺および骨髄は一次リンパ組織。二次リンパ組織はリンパ球と反応する外来性分子または不活性な分子の変化したもの(抗原)に環境を提供する。三次リンパ組織はきわめてわずかなリンパ球しかもたない。炎症をもたらすような抗原に曝されたときのみ免疫的な役割を果たす。

      http://cache.yahoofs.jp/search/pcache?c=Rn2rB7ogRr4J&u=https%3A%2F%2Fja.wikipedia.org%2Fwiki%2F%3Cb%3E%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%91%3C%2Fb%3E%E7%B3%BB&p=3%E6%AC%A1%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%91%E7%B5%84%E7%B9%94

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

       

0件の返信スレッドを表示中
返信先: 3次リンパ組織と腫瘍免疫
あなたの情報: