新型CAR-T細胞(Phase1試験)
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新型CAR-T細胞(Phase1試験)
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okazaki yoshihisaゲスト
Nat Med
2020 Oct;26(10):1569-1575.
『Bispecific anti-CD20, anti-CD19 CAR T cells for relapsed B cell malignancies: a phase 1 dose escalation and expansion trial』
(key word) Bispecific CAR-T細胞、再発B細胞リンパ腫
新型CAR-T細胞療法のPhase1試験の報告です。
CD19-CAR-T細胞療法は、B細胞系悪性腫瘍の治療に革命をおこしましたが、まだまだ解決すべき問題が指摘されています。
(問題点)
アグレッシブB細胞系非ホジキンリンパ腫(NHL)に対する、長期間にわたるPFS(無増悪生存期間)の達成率は30-40%に留まります。
CD19単一分子をターゲットにした治療選択圧により、CD19陰性細胞クローンが出現することが、その理由の一つとして考えられています。
実際、CD19-CAR-T療法を受け、再発したB細胞性NHL患者さんの生検組織解析では、約30%でCD19陰性悪性細胞の出現が認められています。
そこで、CD19分子とCD20分子の2つ同時にターゲットにした、新型CAR-T療法は効果あるのでは?と着想したようです。
(臨床治験:NCT03019055では、新鮮CAR-T細胞と凍結保存CAR-T細胞の治療効果についても解析しているようですが、今回のレポでは、こちらの説明は省きます。)
レンチウイルスをベクタ-とし、
(抗CD20)-(抗CD19)+(4-1BB)+(CD3ζ)キメラ受容体遺伝子を遺伝子導入し、
LV20.19CAR-T細胞を作製しました(Fig5)。
Fig5↓
慢性リンパ性白血病(CLL)とB細胞性NHLの患者31人をエントリーし、条件に適した26人にアフェレーシスを行いました。そのうち、最終的に22人が、今回の治験で決定されている必要細胞数(LV20.19CAR-T細胞)を確保でき、今回のphase1試験にエントリーしました。
22人中、21人はCAR-T療法初回、1人は以前にCD19-CAR-T療法を受けています。
投与細胞は新鮮細胞と凍結保存細胞の2形態のようです。
PR,CRを示した患者の治療開始後28日目までの、奏効持続期間をKaplan-Meiyer法で表しました(Fig1.a)。
治験参加の22人の全生存期間(OS)です。生存期間中央値:20.3月でした(Fig1.b)。
28日目までに完全奏功を示した3人の患者の治療前後での全身PET-CT画像です。
治療後、画像上は腫瘍の消失を認めています(Fig1.c)。
臨床経過(CR,PR,PD)ごとの、投与後~365日間の末梢血液中のCD3⁺CAR-T細胞数の時系列変化です。治療開始後、28日までにCR、PRを達成した患者では、2-12日後にピーク値を記録し、90日後までには測定値範囲外まで減少するパターンを示す傾向にあるようです。PD患者はピークを認めますが、投与~早期では血中細胞数の増加が認められません(Fig1.d)。
治療開始前のリンパ腫細胞上のCD19、CD20分子発現割合の分布です。不思議なことに、臨床経過(CR,PR,PD)とは相関ないそうです(Fig1e)。
22人の患者さんの、投与開始後28日までの臨床経過表です。
緑:CR、青:PR、赤PD
右端:CAR-T細胞投与量を示しています。
82%の患者さんで治療効果ありでした(Fig1.f)。
多くの患者さんで、CAR-T細胞投与後に測定された血中循環T細胞解析では、早期にはCD4⁺細胞がみられ、
CD4⁺:CD8⁺比は減少していたようです。
Fig1↓
PDとなった3人の患者の解析:
治療後の生検組織のCD19、CD20分子の発現
CD20 CD19
1: 100% 100%
2: 80% 80%
3: 100% 100%
PD患者ですが、病巣には標的分子がモリモリ発現していたようです(Fig2.a)。
CD19とCD20の発現差による影響はなさそうです(Fig2.b、赤点線がそれぞれの平均値で有意差なし)。
CRを達成した12人の内、4人が6ケ月以降に再発を認めましたが、この間の末梢血中のCD3⁺CAR-T細胞数の時系列(Fig2.c)とCAR⁺細胞のAUCの比較です(Fig2.d)。
再発群(4人)では、ピーク値が3×10^5個以下、非再発群(8人)では、ピーク値が3×10^5個以上の特徴があり、AUC値にも有意な差を認めています。
Fig2↓
CD19、CD20の2分子を標的としながらも、再発を認めた患者も存在しています。
#3の患者は特に興味深いです。
#3患者のCAR-T細胞は、生検組織のCD19⁺CD20⁺リンパ腫細胞と反応後もIFNγの産生能は低く(Fig3.cの右下)、殺細胞能力も低かった(Fig3.bの一番右)。Fig3.a右側で生検組織中のリンパ腫細胞の存在は確認しています。
Fig3↓
また、血中循環CAR-T細胞数が多いからといって、臨床経過が良いとも限らないようです。血中循環CAR-T細胞数が多い=CAR-T細胞への抗原刺激が継続的に起こっている=他の生体内T細胞の殺細胞効果を阻害している。このような機序が想像されます。
最後に、初めてCAR-T投与を受けた患者と、以前にCD19-CAR-T投与を受けた患者でのCAR⁺T細胞増殖の比較です(Fig4.a)。以前にCAR-T療法を受けた患者では、細胞増殖能の低下がみられ、LV20.19CAR-T細胞に対する免疫反応が背景にあるのではないかと考えられる。
Fig4↓
(感想)
2つの攻撃目標を持った新型CAR-T療法の治験結果(Phase1)でした。
体内動態・効果ですが、デザイナー細胞はナマモノのためか、一筋縄ではいかない側面も多いようです。
標的腫瘍細胞に、CD19、CD20といった分子がしっかり発現していても効果が認められなかったり、2度目の投与時には思ったように増殖しなかったりするようです。
前回のHER2-CAR-T細胞の論文でも示唆されていると思いますが、効果の有無には、CAR-T細胞と腫瘍の関係だけでなく、“患者側の体内免疫系の進化”のようなものが重要なのかもしれません。CAR-T細胞は、患者免疫系にどのような作用を及ぼしているのでしょうか??興味深いです。(確か、全回のレポ『生体とCAR-T細胞』では、患者側免疫系には“進化”のような現象が認められていましいたが、CAR-T細胞自体にレパトアの増加はなかったように記憶しています。)
エピトープスプレッディング
(自己免疫疾患・感染症で言われている抗体産生応答において,最初は特定のエピトープに特異的な抗体産生が認められるが,次第に,当初のエピトープの近傍のエピトープに対しても抗体産生が認められるようになり,抗体の抗原認識に多様性が生じることをさす)
のような現象がるのでしょうか???(実験医学 細胞医薬 p111)
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@kensho_2021phamゲスト
大変興味深いご紹介ありがとうございます😊
過去のCAR-T治療の有無のお話はとても面白いですね。やはり、患者さんの免疫系との相互作用はとても大切だと。
そうなると、やはり遺伝子背景や生育環境が統一化されている動物実験マウスで知見というのは鵜呑みにすることはできないですね。
臨床と非臨床のギャップを埋めるべきというのは頭では分かっていても、こういう患者さんでの臨床データというのを知ると多くのことを考えさせられます。
臨床研究の論文などを普段から紹介したり読んだりしていないので(本当は読むべきなのですが)、大変勉強になります。有難うございました。
それにしても標的抗原が発現していても効かなかったり、血中のCAR-T量とは相関しなかったりで、何か隠されたメカニズムがありそうです。
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okazaki yoshihisaゲスト
Fig3.g実験ですが、自家CD20-CD19-CAR-T細胞ですが、
CD20⁺CD19⁺のRsj細胞と培養すると、ちゃんとIFNγ産生しています。
自分のがん細胞と培養すると、IFNγ産生能が低下しています。
何かあるんでしょうね。
腫瘍⇔CAR-T⇔生体免疫系(T、B、DC等含む)
の関係が”マッチ”しないと、腫瘍の消失は無理なのかもしれません。
埋め込まれた、CAR-T細胞は殺腫瘍以外に何か生体に作用しているのでしょうか?
”ほぼ無数のパラメーターの最適解”=腫瘍治癒。
ICIは”ヒト”に使われているので、ICIでのヒト免疫系解析を行った論文も探してみます。
Phase2,3と結果楽しみにしています。
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