ウイルスコンピュータで治療する!?
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ウイルスコンピュータで治療する!?
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okazaki yoshihisaゲスト
(論文)
『Effective combination immunotherapy using oncolytic viruses to deliver CAR targets to solid tumors』
science translational medicine 2September 2020
(背景)
CD19陽性のB細胞系ALLに対しては、CD19CAR-T(=細胞コンピュータ)療法が行われていますが、固形腫瘍に対するCAR-T療法は現在でも開発中です。理由の一つに、固形腫瘍特有の表面マーカーが腫瘍不均一性などのために同定しにくいことがあります。例えば、トリプルネガティブ乳ガン、肝臓ガンなどで、CAR-Tの標的に適した特有の“抗原”を同定することが困難であることが判明しています。
一方、腫瘍溶解ウイルス(=ウイルスコンピュータ)は、固形腫瘍に対する特異性の高さ、固形腫瘍に対する免疫原性惹起能の高さ、固形腫瘍への目的遺伝子へのデリバリー能の高さが知られています。臨床応用されている例として、Talimogene laherparepvec(TVEC)があります。これは、1型herpes simplex virus(HSV)に顆粒球-マクロファージ-コロニー刺激因子遺伝子を組み込んだものです。
このグループは、CD19蛋白質の一部でシグナル伝達能を欠いた、変異型CD19蛋白質(CD19t)遺伝子を組み込んだ腫瘍溶解ウイルス(OV19t)をvacciniaウイルスから作成し(Fig1-A)、CD19CAR-T細胞療法と組み合わせる治療法について、モデル実験を行っています。
OV19t:チミジンキナーゼ遺伝子をコードする遺伝子座J2Rに、プロモーター遺伝子Pse+ヒト型CD19t蛋白遺伝子の人工遺伝子回路を挿入しウイルスコンピュータに加工したものです。(Fig1-A)
(本論)
Fig1の実験:
試験内実験です。
OV19tをMDA-MB-468細胞に感染させると細胞表面にCAR-T細胞の標的になってほしいCD19t蛋白が発現されてくることを確認しています(Fig1-B)
FACSでもCD19t蛋白マーカーの上昇を確認しています(Fig1-C)。
膵臓癌、前立腺癌、卵巣癌、頭頸部癌、グリオーマといった様々な癌細胞でOV19t 感染後にCD19t蛋白質が細胞表面に発現してくることを確認しています(Fig1-E)。
Fig2の実験:
試験管内実験です。
MDA-MB-468細胞とOV19t、CD19CAR-Tを様々なパターンで共培養したデータです。
OV19t+CD19CAR-Tの場合のみ、CD8+CD107a+細胞、CD8+IFN-γ+細胞の増加、細胞障害性サイトカイン:IFN-γやIL-2の増加が認められることを確認しています(Fig2-A,B,C)。
実際にMDA-MB-468細胞障害の度合いも
OV19t+CD19CAR-Tの場合により高まることを確認しています(Fig2-F)。
次にin-vivoのモデルマウス(ヒトexnograft腫瘍モデル)での実験を行っています。
Fig3の実験:
MDA-MB-468細胞、U151T細胞モデル、いずれの場合も、OV19t+CD19CAR-T治療の場合に腫瘍体積の著名な縮小が認められています。
Fig4の実験:
次に、OV19t+CD19CAR-T治療に対する生体側の免疫応答の有無を明らかにするために、マウス型に変換した、OVm19t、mCD19CAR-Tを作製し、免疫機構を保持したマウスを使ってin vivo実験を行っています。
MC38癌細胞を使っています。
この場合もやはり、OVm19t+mCD19CAR-T療法で腫瘍サイズの縮小が認められますし、生存率も上昇しています(Fig4-B,E)。
この効果の生体的メカニズムを探るために、さらに試験管内の実験を行います。
Fig5の実験:
mCD19CAR-Tによる腫瘍細胞破壊が、OVm19tの細胞外放出と近傍癌細胞への更なる感染を引き起こすことを確認しています(Fig5-Aなど)
最後に、こうした“連鎖反応的”機構が、生体内の本来の免疫系を刺激するかどうか、in-vivoモデルで解析しています。
Fig6の実験:
予想どうり、OVm19t+mCD19CAR-T療法によって、腫瘍局所へのCD3+細胞、CD8+細胞など細胞障害性T細胞の浸潤が増加していることが確認できました。
(マトメ)
今回の概念検証実験で、OV19t+CD19CAR-T療法のような、腫瘍溶解ウイルス療法+CAR-T細胞療法(=ウイルスコンピュータ療法+細胞コンピュータ療法)が、固形腫瘍への新たな免疫療法になる可能性が示唆されたと思います。
今後、検討すべき問題点として、
1:ヒトCAR-T療法で報告されている、サイトカインストーム等の副作用の可能性は?(今回のマウス実験では、そのような副作用は観察されていないようです。)
2:ヒトCAR-T療法で報告されている、B細胞減少症は大丈夫なのか?(ヒトで発生した場合は、免疫グロブリン療法で対処可能だそうですが。。)
3:正常組織へのOV19t感染による、off-target問題。このグループは治療マウスの正常組織も解析しているようで、少なくとも今回の実験では、望んでいない組織へのOV19t感染やCD19t蛋白の発現は少量しか確認できなかったと報告しています。
(感想)
CAR-T療法の固形腫瘍への展開。魅力的な視点だと思います。解決策の一つとして、標的病変に“人工的攻撃目標”を付加するという発想があると思います。今回はそのうちの一つでしょうか?
ただ、CAR-T細胞が固形腫瘍を攻撃しにくい理由は、単に“攻撃目標”が認識できないだけなのか??
個人的には腫瘍微小環境との関連など、ガン生物学特有の複雑な問題が潜んでいるように感じているのですが。。
追加:
細胞、細菌だけでなく、ウイルスも加工によって1種のコンピューターに加工できる。
今回も1冊、下記のポピュラーサイエンス本を連想しました。
『ジェネシス・マシン』
https://bookmeter.com/books/105795
(細胞はTuringが予言した、ハイパーコンピュータなか?
Fig1:
Fig2:
Fig3:
Fig4:
Fig5:
Fig6:
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@kensho_2021phamゲスト
okazaki yoshihisa先生
大変興味深い論文紹介有難うございます。
腫瘍溶解ウイルス(ウイルスコンピュータ)というものを初めて知りました。
ガン細胞に、標的抗原を付加するストラテジーは大変面白いと感銘を受けました。
一つ質問なのですが、ガン細胞への標的抗原発現誘導の特異性(つまり他の細胞への感染がない)は、
腫瘍溶解ウイルスがもつ何か特性(感染経路など)によるものなのでしょうか。そのあたりの詳細なメカニズムは、
やはりoff-target細胞感染からのCAR-T-on-target副作用につながる懸念をぬぐってくれる気がしたので。
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okazaki yoshihisaゲスト
お返事ありがとうございます。
可能な限り腫瘍細胞特異的に感染しCD19tを発現させることが求められると思います。
腫瘍溶解ウイルス治療用の、腫瘍特異性をupさせる方法は、下記とかいかがでしょうか?
実際に現場で使ったり、研究しているわけではないので。。。すみません。
東大医科学研究所:藤堂先生
阪大医学部;金田先生 などが御高名です。
藤堂先生が開発されておられる、G47Δ、確かグリオーマに対して薬事申請だされていたような記憶があります。
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okazaki yoshihisaゲスト
追伸です。
G47Δはこちらです。
グリーオーマに効果ありとのことですが、実際どうなのでしょうか?
関心あります。御専門の大須賀先生のご意見とか聞けると嬉しいです。
https://www.amed.go.jp/news/release_20190213.html
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@kensho_2021phamゲスト
okazaki yoshihisa先生
リンクを貼っていただき有難うございます。
毒を持って毒を制すようで、非常に理にかなっているように感じました。
感染経路で制御、プロモーターの制御、正常細胞での複製機能欠損
など多面的に制御しているのですね。
大変勉強になりました。
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okazaki yoshihisaゲスト
お返事ありがとうございます。
実験医学の下記の号で、がんのウイルス療法が特集されておりました。
この論文のvacciniaウイルスも取り上げられています。
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