神経芽細胞腫とCAR-NKT細胞療法(Phase1)

神経芽細胞腫とCAR-NKT細胞療法(Phase1)

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      okazaki yoshihisa
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      Nat Med  . 2020 Oct 12.

      『Anti-GD2 CAR-NKT cells in patients with relapsed or refractory neuroblastoma: an interim analysis 』

      https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33046868/

      (key word)

      神経芽細胞腫(病期M)、NKT細胞、CAR-NKT細胞、がん免疫細胞療法

       

      (背景)

      NKT細胞は,主にCD1d分子拘束性に脂質抗原を認識するT細胞亜群で,NK細胞マーカーも発現します。通常のT細胞は,胸腺皮質上皮細胞に発現する主要組織適合抗原(MHC) + ペプチド抗原による正の選択を経て分化しますが,NKT細胞は胸腺細胞上のCD1d +脂質抗原による正の選択により分化します。骨髄由来細胞による選択の結果,NKT細胞は自然免疫系エフェクター様の迅速な機能発現が可能で,自然−獲得免疫間のギャップを橋渡しする役割を担うと言われ迅速・大量・多彩な液性因子産生,細胞障害能、組織到達能を有します。

      中でも、ヒトVα24インバリアントNKT(以下NKT) 細胞は,T細胞抗原受容体(TCR)の他に,NK細胞マーカーであるNKR-P1A(CD161)分子を発現しており、TCRVα鎖(Vα24 – Jα18)にTCR遺伝子再構成の際にN領域の挿入を伴わない,均一なTCRAV24AJ18遺伝子が使用され、CD1d分子によって提示された糖脂質を認識します。

      多くの腫瘍では、CD1d分子の発現は認められず、NKT細胞が直接腫瘍をターゲットにすることはできませんが、腫瘍由来ケモカインの誘導で腫瘍近傍まで移動できるそうです。また、腫瘍微小環境にNKT細胞が存在すると、ある種のガンでは予後が良いことも知られています。

      事実、NKT細胞は、腫瘍微小環境内で腫瘍増殖を促し転移を促進するマクロファージ細胞を殺し、間接的にNK細胞・T細胞の抗腫瘍反応を高めるそうです。

      しかし、NKT細胞は、健常者ヒト末梢血単核球細胞中に0.1%程度しか存在せず、胆ガン患者では更に低い存在割合となります。

      そのため、NKT細胞を細胞治療に使用するのに、効率的な増殖方法の確立も求められているとのことです。

       

      (論文内容)

      今回、治験対象となった神経芽細胞腫細胞は、GD-2ガングリオシドを特異的に高レベルで発現しています。

      以前試みられた、第3世代GD-2-CAR-T細胞を使った治験では、安全性に問題はありませんでしたが、参加した11人の患者さんで残念ながら臨床効果は認められませんでした。

      そこで、T細胞の代わりに、NKT細胞とNKT細胞活性化をサポートするIL-15に着目し、GD-2-CAR- IL15-NKT(IL-15をオートクライン的分泌する?)細胞を作製しました。

      マウス前臨床試験では、GD-2-CAR-IL15-NKT細胞は、GD-2-CAR-NKT細胞(IL15を生産しない)と比較して、安全性も認められ、腫瘍浸潤能・生存能・抗腫瘍効果(転移巣)等の点で優れていたそうです。

      これを受けて、GD-2-CAR-IL15-NKT細胞療法の神経芽細胞腫(病期M)に対する、ヒト第1相臨床治験を計画しました。

      治験プロトコール(Fig1.a)⇒Cy/Fl:シクロフォスファミド(500mg/m2)+フルダラビン(30mg/m2)を最初に投与します。先日、ご紹介した『生体とCAR-T細胞』で指摘されていたように、殺腫瘍効果に加えて、CAR-T細胞投与前に、患者リンパ球を破壊し、CAR-T細胞のニッチ確保+CAR-T細胞増強効果のあるIL15、IL7の増加を促すと似た効果を狙っているのではないかと推察します。

      治験登録過程は(Fig1.b)

      *Fig1.a.bは別枠に掲載しました*

       

       

      治験登録者背景は、

      12歳  男性

      12歳  男性

      6歳   男性

      神経芽細胞腫(病期M、多発転移あり)で、標準治療・サルベージ治療に抵抗性で再発した患者さんです。

      今回の治験に関わる副作用は、CRS(サイトカイン放出症候群)、神経毒性なども確認されましたが、おおむね許容範囲内でした。

      患者さんに、アフェレーシスを行い末梢血単核球細胞(PBMC)を回収します。

      次に、NKT細胞を純化し、CD3/CD8アゴニストなどを添加し、NKT細胞を効率的に増殖させ治療投与必要量を確保する技術も開発しています。

      NKT細胞に遺伝子操作を行い、GD-2-CAR-IL15-NKT細胞(以下、CAR-NKT細胞と表記)を作製します。

      3人の患者に投与された、GD-2-CAR-IL15-NKT細胞数=1.3×10^6個/m2です。

       

      (解析)

      ●3人全員で、CAR-NKT細胞投与後~Day4~4週間後までの全期間で、

      末梢血中にNKT細胞シグナルの出現を認めました(Fig1.aは患者3のデータ、Fig1.b)。

      ●フローサイトメトリー、qPCR解析結果です。3人全員で、CAR-NKT細胞投与後のDay4~4週間後に渡って末梢血液中に、CAR-NKT細胞の存在を確認できました(Fig1.c.d)。

      Fig1.a.b.c.d↓

       

      ●投与前の計9,323個のCAR-NKT細胞にscRNA-seq解析を行いました。9個のクラスターに分類できました。この9クラスターパターンは、3人全員に認められました(Fig1.e)。

      ●導入CAR遺伝子発現、セントラルメモリー機能関連遺伝子・細胞活性関連遺伝子は、特にクラスター3細胞に顕著に認められ、特に患者3番で顕著でした(Fig1.f.g.h)。

      ●クラスター3の細胞には、

      1:共刺激分子OX40(TNFRSF4遺伝子)

      2:セントラルメモリー関連分子CD62L(SLL遺伝子)

      3:Wntシグナル経路分子の遺伝子群

      などに発現増加が見られました(Fig7.a)。

      Fig1.e.f.g.h+Fig7.a↓

       

      ●特にクラスター3の細胞には、

      解糖系関連遺伝子、

      酸化的リン酸化関連遺伝子の発現上昇も確認できました(Fig8.a)。

      実際、患者ごとに、CAR-NKT細胞を解析すると、

      解糖系、解糖系キャパシティーは、

      患者1より、患者2,3で有意に高値です(Fig8.b.d)。

      酸化的リン酸化能の指標として、ミトコンドリア呼吸鎖能を評価すると、患者3人全員で上昇が確認できましたが、特に患者3で最も高ったようです(Fig8.c.d)。

      Fig8.a.b.c.d↓

       

      ●各患者のCAR-NKT細胞の治験期間に渡る殺腫瘍能を評価しました。

      神経芽細胞腫細胞:CHLA-255と、各患者CAR-NKT細胞を共培養して評価したところ、患者1ではプロトコール終盤に殺腫瘍能の低下が認めら、患者2.3では殺腫瘍能は維持されていました(Fig9.c)。

      ●IL15,IL7の血中濃度を解析しました。

      IL15は、投与前か投与後3時間でピーク値を記録し、その後は単調に減少、プロトコール終盤にはbaseline値になります。

      これは、先日紹介の『生体とCAR-T細胞』でも指摘されているように、化学療法Cy/Flで誘導された、リンパ球減少症に対する患者生体側の反応による上昇と考えられます。

      IL7のパターン・変動機構も同様と考えられます(Fig10.b.c.d)

      Fig9.c+ Fig10.b.c.d↓

       

      ●CAR-NKT細胞の腫瘍病変への浸潤の程度を、患者1からの生検組織で評価しました。投与後2週間、4週間と病変個所で、NKT細胞、CAR-NKT細胞の存在が確認できます(Fig2.a.b)。患者2では、投与後4週間、8週間後のSPECT画像で、MIBG取り込み低下と、腫瘍サイズ縮小も確認されています(Fig2.d)。

      Fig2.a.b.d↓

       

      最後に、患者1,2,3の治療効果判定ですが、

      患者1:SD

      患者2:PR

      患者3:SDでした。

      (結論)

      ○NKT細胞は、

      体外で十分増殖可能、

      CAR遺伝子導入可能、

      神経芽細胞腫に対して安全に細胞療法を行える可能性を示唆した。

       

      ○CAT-NKT細胞は、投与後、末梢血にも存在し、そこで増殖可能である。

      ○CAT-NKT細胞は、骨転移巣・骨髄に集積可能で、治療抵抗性・再発の神経芽細胞腫細胞に対する殺細胞効果があり、対象者は3人ですが、phase2試験に移行可能な成績だったと思われます。

      ○こうした、CAT-NKT細胞の抗腫瘍効果は、セントラルメモリー細胞的性質、適切な代謝状態、疲弊抵抗性等の維持によって保たれる可能性を示唆する。

      ○腫瘍細胞上のターゲットマーカーの存在も重要そうだ。

      Phase2,3試験では、こうした点を更に詳細に解析する必要がありそうです。

       

      (感想)

      T細胞、NK細胞以外のNKT細胞を細胞治療用に加工した研究でした。

      ターゲットとした神経芽細胞腫は、第3世代GD-2-CAR-T細胞療法治験では、治療効果を示さなかったようで、今回は、NKT細胞に着目したようです。NKT細胞の自然免疫作用+獲得免疫作用、IL15のオートクリン作用が効いたのか?

      Ex vivoで殺腫瘍作用が最も低くかった、患者1のCAR-NKT細胞は、

      ●解糖系活性、ミトコンドリア呼吸鎖活性も最も低く

      ●OX40分子、CD62L分子、Wntパスウエイ関連分子といった、共刺激分子、セントラルメモリー関連分子の発現も最も低かったようです(原論文はデータ解析あり)。

       

      デザイナー細胞の殺腫瘍効果を高め・維持するには、代謝・細胞本来の性質の維持が必要なようです。

      実験医学 『イムノメタボリズムとT細胞の疲弊・老化』参照

      https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/book/9784758125383/index.html?ref=big

      (注1)ガングリオシド

      https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%82%B7%E3%83%89

      (注2)神経芽細胞腫

      https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E8%8A%BD%E7%B4%B0%E8%83%9E%E8%85%AB

      (注3)

      エフェクターメモリーT細胞:主に二次リンパ組織と末梢組織を循環し、同一抗原に再度暴露した際に速やかにサイトカインを産生し、免疫応答するT細胞です。
      セントラルメモリーT細胞:二次リンパ組織に常駐して、抗原応答を示すT細胞(CCR7陽性、CD62L陽性)です.

    • #2842 返信
      okazaki yoshihisa
      ゲスト

      (追加図)

      プロトコールと患者背景です。

    • #24034 返信
      okazaki yoshihisa
      ゲスト

      脳幹グリオーマに、抗GD2-CAR-T細胞が効果あり!?

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返信先: 神経芽細胞腫とCAR-NKT細胞療法(Phase1)で#24034に返信
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