ドナー血液系細胞進化vsレシピエントCLL細胞進化

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ドナー血液系細胞進化vsレシピエントCLL細胞進化

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      okazaki yoshihisa
      ゲスト

      Science Translational Medicine  16 Sep 2020

      『Distinct evolutionary paths in chronic

      lymphocytic leukemia during resistance to the

      graft-versus-leukemia effect』

      https://stm.sciencemag.org/content/12/561/eabb7661

      (key word)同種造血幹細胞移植、GvL、進化

       

      (背景)

      悪性血液系腫瘍に対する、同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)後の再発、進行リンパ系悪性腫瘍の再発、graft-versus-leukemia (GvL)効果の減弱の背景にある機構などは、現在も詳細は不明で、医学的に大きな問題となっています。

      今回、このグループは、allo-HSCT後の慢性リンパ性白血病(CLL)患者を対象に、白血病細胞の“進化?”に焦点をあて、移植成績と相関しているかどうか解析しました。

       

      allo-HSCTでは、健常者の血液幹細胞がCLL患者さんに移植されます。

      donor-derived graft-versus-leukemia (GvL)⇒ドナー免疫系が、患者さんのCLL細胞を“敵”とみなし攻撃する⇒CLL細胞の破壊≒CLL治療。を期待した治療です。CAR-T細胞療法と似ているかもしれません。

      実際、今回の治験でも、allo-HSCT 後の再発までの期間長かった群≒治療効果が高かった患者さんには、graft-versus-host disease (GvHD) =ドナー免疫系が、患者さんの正常組織も攻撃する副作用の一種が、P値 = 0.03の有意差を持って確認されているようです。

      したがって、以下の解析は、

       

      ドナー免疫系細胞vs患者CLL細胞

      といった構図でも眺めることができると思います。

       

      (内容)

      allo-HSCTを受けるCLL患者10人のCLL細胞を解析しました。

       

      ●患者10人の治療・経過背景です(Fig1.A)。

      移植前、移植後再発時のサンプルからCLL細胞を純化し、DNAの全エクソーム解析(WES)を行い、骨髄ドナー、骨髄レシピエントの体細胞DNA配列とも照合しました(9人/10人)。

      ●結果、移植前、移植後再発時双方のCLL細胞サンプルにおいて、多数の非サイレント1塩基変異(SNVs)や、欠損、挿入を確認できました(Fig1.B)。

      Fig1.Bで紫が濃くなるほど、移植後~再発までの期間が長いことを示します。

      多くの患者で、TP53、SF3B1遺伝子の変異やコピー数変化を観察しましたが、移植後のサンプル間に共通の変異は見られませんでした。

      PhylogicNDT(サンプルの細胞に検出された体細胞突然変異に基づき、細胞の系統発生、進化過程を再構成する方法)を使って解析しました。

      ●Fig1.Bの9人は、clonal stability群(全てのcancer cell fractionsの変化<0.2、Fig1Bの最上段3人)とclonal evolution群(cancer どれかのcell fractionsの変化≧0.2、 Fig1Bの中断と最下段6人)に分けれました。

       

      clonal stability群vs clonal evolution群の

      allo-HSCT後から再発確認日までのデータです。

       

      stability群:平均304日:= “early” relapse

      evolution群:平均798 日:=“late” relapse, P = 0.024でした(Fig1.C)。

      治療にたいする反応性を明らかにするために、移植前の患者さんのCLL細胞の分子レベルでの違いを上記の early relapses群と

      Late relapses 群 とで比較したところ、発現上昇を認めた853個の遺伝子と、発現低下を認めた793個の遺伝子を確認しました(false discovery rate (FDR) < 0.25)。

      GSEA解析を行うと

      ●early relapses群の患者さんでは、幹細胞様の遺伝子発現がみられました(Fig1.D)。

      ● late relapses群の患者さんで、1002個の発現変動遺伝子が特定され(FDR < 0.25) 、幹細胞様伝達系遺伝子の発現上昇だけでなく、FcやB細胞受容体伝達系遺伝子の上昇も観察されました。 (Fig. 1E)

      .Fig1.A.B.C.D.E↓

      Fig1の結果から、early relapses群 ではCLL細胞の“進化”は必要なく、late relapses群では、GvL治療選択圧に対する、ネオアンチゲン消失のような、一種の“進化”が背景にあることが推察されました。

      そこで、

      early relapses群から、5338番、5339番の2人(それぞれ、allo-HSCT後、 304 日、443日に再発)、late relapses群から5328番、5341番の2人(それぞれ、allo-HSCT後、 1801 日、1825日に再発)を選び、scRNA-seq解析を行いさらに詳細に解析しました(Fig2.A)。

      Fig2.Cのような細胞クラスターに分類できました。このうちCLLクラスターを詳細に分析しました。

       

      ○CLL細胞クラスターは、6種類のクラスターから成り、患者ごとのクラスター解析、病態ごとのクラスター解析は(Fig2.C)のような結果になりました。

      ○early relapses群=移植前後で、転写レベルで変化が少なく、多様な細胞が入り混じったクラスターを成す傾向がみられます(Fig2.D.E)。

      ○late relapses群:移植前後で、転写レベルで変化が大きく、多様性の低い細胞からなるクラスターを成す傾向がみられます(Fig2.D.E)。

      ○実際の遺伝子発現レベルの移植前後での差は、Fig2.Fのようになり、P値 = 0.02です。

      Fig2.A.B.C.D.E.F↓

      5328、5341の患者=late relapses群の6つのクラスターに注目すると、

      ○ribosomal biogenesis,

      ○antigen presentation,

      ○apoptosis regulation,

      ○proliferation,

      ○calcium/cAMP(adenosine 3′,5′-monophosphate)

      の5領域の遺伝子発現パターンに不均一性が認められました(Fig. 3A)。

       

      クラスター6(5328患者で)、クラスター4,5(5341患者で)に注目すると、

      ○アポトーシス促進遺伝子=TP53, DFFA, BAXなどの発現低下がみられる(Fig3.A.B)。

      ○抗アポトーシス遺伝子、細胞保護遺伝子である、MTRNRL2  MTRNRL8などの発現上昇がみられる(Fig3.A)。

      ○HSCT後に出現した、クラスター4,5,6に注目するとB細胞系悪性腫瘍で腫瘍抑遺伝子として知られれる:BACH2遺伝子の発現低下が見られます(Fig3.B)。

      ○HSCT後に出現したクラスター4,5,6に注目するとB細胞系白血病細胞の生存、抗アポトーシスに関連した、PIM2 、MCL1 遺伝子の発現増加が見られました。(P < 2.2 × 10^-16 (Fig. 3, A. B)).

      ⇒5328、5341の患者=late relapses群では、HSCT後に悪性腫瘍細胞の生存に有利に働く遺伝群の発現上昇と、生存に不利に働く遺伝群の発現低下が見られたと推察できます。

      Fig3.A.B↓

       

      引き続き、5328、5341の患者=late relapses群に注目した解析です。

      ○クラスター4.5.6でHSCT後に、HLA-classⅠ、HLA-classⅡといった、抗原提示分子の発現上昇が確認できます(Fig4.A.B)。

       

      ○これらの分子を発現している細胞密度は、HSCT後に有意に増加しています(Fig4.C)。

      ○バルク全体でB細胞、未治療CLL細胞、HSCT治療前後の細胞上のHLA-classⅠ、HLA-classⅡ分子の発現を比較した場合には有意な差は認められませんでした(Fig.4.D)。

      RPS15の解析から、こうした転写レベルの変化は、遺伝子レベルの変化に由来する可能性が示唆されます(Fig4.E.G.H)。

      Fig4.A.B.C.D.E.F.G.H↓

       

      遺伝子のメチル化異常をpercentage of discordant reads (PDR)法で評価しました。

      ○late relapses群の患者では、エクソン、1-kb tilesなどゲノムの多くの箇所でPDRの変化に有意な増加が見られます=遺伝子の多くの箇所でメチル化異常がおきているようです(Fig5.A)。

      ○化学療法単独群では、PDR変化は時間変化と共に減少しますが、late relapses群では増加します=時間経過と共にメチル化異常を受ける遺伝子箇所が増加していることを示唆します(Fig5.B)。

      ○late relapses群でプロモーター領域のPDR変化の上昇=メチル化異常の上昇により、幹細胞様の遺伝子発現が見られ、実際にCACNA1C,  DLC1, ID2 といった幹細胞で見られる遺伝子の発現が上昇しているようです(Fig5.C.D.E.F)。

      Fig5.A.B.C.D.E.F↓

       

      (結論)

      CLL患者さんへのallo-HSCT後、

      ○early relapses群では、患者側に移植前から存在した悪性細胞が、“進化”のような遺伝子レベルの選択圧による変化を伴わずに再発する傾向がありそう。

      ○late relapses群では、ドナー免疫系進化vs患者悪性細胞進化の戦いの末に、患者悪性細胞細胞が勝利し、この進化戦争の帰結として、幹細胞化変異等、新たな系譜の細胞の出現による再発と推察されます。

      (感想)

      慣れない血液系の論文のため、今回は苦労しました。解釈が間違っている箇所も多々あるかもしれません。

      訂正等のご指導を頂ければ幸いです。

      ガン治療の過程で、“治療選択圧による進化”のような現象が実際に起こっているとは。。。。

      “治療選択圧による進化”。。実際にどのような方向に進化するか?

      予測可能なのでしょうか???

      TEADトーク:『万物の理論を計算する』

      https://digitalcast.jp/v/13263/

      連想しました。

      ○生物学的プロセス

      ○経済

      ○自由意思

      ○テクノロジーの創造。。。。

      こういったものは、“計算還元不能”つまり、“計算不可能なことがら”の可能性が。。。謎です。

    • #1992 返信
      大須賀覚
      ゲスト

      面白い論文のご紹介をありがとうございました。わずか800日ほどの期間にも、Evolutionが起こっているということに驚きました。やはり、遺伝子不安定性がある腫瘍細胞では、短い期間でも十分に選択圧に対応することが可能なのですね。

    • #3252 返信
      okazaki yoshihisa
      ゲスト

      悪性腫瘍治療は、”進化”(予測・制御・計算不能)との闘いなのかもしれません。

      味方は”進化する能力”を備えた”ナマモノ”?

      哲学的にも奥が深そうです。

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返信先: ドナー血液系細胞進化vsレシピエントCLL細胞進化で#1992に返信
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